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Timeline
Timeline 〜タイムライン〜
数十年先も、そのビジネスは続いていくか。
商社ビジネスでは、1つのプロジェクトに10年以上を費やすことも珍しくない。そこで求められるのは、目先の利益や効率だけにとらわれず、関わる人々の幸せを長い目で考える力。ここでは、長期プロジェクトのなかで住友商事社員が何を考え、どう動いたのかを時間軸に沿って紹介する。
取り上げるのは、フィリピン・マニラの都市鉄道の増強プロジェクト。急速に経済発展する都市に、新しい鉄道は何をもたらしたのか? プロジェクト始動時から現在までを知る、交通・輸送インフラ事業部プロジェクト総括の藤川英大に聞く。


“ 誰の役に立っているか?”
が目に見える鉄道インフラ
交通・輸送インフラ事業部1993年入社
藤川 英大
Timeline's Interview
2005年:90年代から築き上げた信頼に、報いたい。
今回お話するのは、フィリピンの首都であるマニラを走る都市鉄道・LRT1号線の輸送力増強プロジェクトです。
マニラでは交通手段の大部分を自動車に頼っています。急成長する途上国の都市部ではどこも同じような状況ですが、公共交通インフラを整備する速度よりも、国民が豊かになる速度が上回り、自動車に頼らざるを得ないのです。その結果、交通渋滞が慢性化し経済発展の足枷となったり、大気汚染が深刻化したりと、好ましくない問題につながっていました。
LRT1号線の増強は、そんな状況を緩和・改善するためのもので、フィリピン政府主導のもと円借款(日本政府が途上国政府に対して行う、インフラ整備への長期・低金利の資金貸し付け。政府開発援助の一環として行われる)事業として実施されました。マニラ初の鉄道であるLRT1号線は1985年の開通後、30年以上が経過し老朽化が進んでいました。
利用者数も開通当初から大幅に増えており、輸送力の増強も望まれるなど重要なプロジェクトでした。
我々、住友商事にとってもマニラの鉄道事業は重要な事業です。現在、フィリピンに走る都市鉄道は1号線から3号線までの3本ですが、当時すでに2号線と3号線には関わっていました。特に3号線に関しては、90年代にゼロから鉄道を敷き、運行可能にして引き渡すという難易度の高い案件でした。これは、日本の企業が海外で都市鉄道システム建設を完成させたはじめての事例で、それ以来、他国でのプロジェクトでもマニラでの実績を買っていただけるほどのインパクトがありました。もちろんフィリピン国内でも多くの信頼を寄せていただけていたので、その信頼と期待に答えるためにも1号線のプロジェクトもぜひ受注し、成功に導きたいと常に考えていましたね。
2007年:異例のタッグでつくりあげた、市民の笑顔。
受注企業選定には競争入札が行われ、いくつかの企業が手を挙げました。選定基準になるのは価格と技術力。特に技術面は、信号等の鉄道システムのアップグレードと、車両自体の輸送性能や快適性の向上、二軸のノウハウが必要でした。
総合商社は海外ビジネスのノウハウはありますが、メーカーではありませんから、技術力のあるメーカーとパートナーシップを組む必要があります。普通は商社1社とメーカー1社のペアで進めるのですが、このときは求められる要件を満たすために変則的なチームを組みました。私たちは鉄道システムに長けたメーカーさんと、別の商社さんは車輌技術に長けたメーカーさんとそれぞれ組もうとしていたのですが、この2チームが一緒になれば、より良い提案ができるのではと考え、異例の4社コンソーシアムを組んだんです。この作戦が功を奏し、受注に至りました。
実際にプロジェクトを進行する過程では、技術面はメーカーさんに引っ張っていただきつつ、我々はそれ以外のすべて、商務や税務、法務などを担当しました。法律や制度、もっといえば文化や国民性も違う国でのプロジェクトですから、トラブルは日常茶飯事です。工事免許がスムーズにおりない、消費税制に穴があり会計処理に戸惑う、政府組織が縦割なために検収プロセスに時間がかかって工費支払いが遅延する……。そういったトラブルに対して、関係者の間に入って丁寧に説明を続けました。泥臭く働き続けたかいあって、2年という短納期のなかで無事完工できました。
新しくなった車両に乗り込む乗客の笑顔は忘れられませんね。キレイで、空調も整った車両の快適さが評判で、古い車両が来ても乗らず、新しい車両をわざわざ待つ人もいるくらいで(笑)。インフラというと、電気だったり水道だったり、使っている人の顔が直接は見えづらいことが多いのですが、鉄道の場合は誰に貢献しているのかが見えやすい点が、大きなやりがいですね。
Timeline's Photo
2017年:マニラの鉄道の今と、その先に見えるもの。
マニラの交通インフラのなかで、鉄道の存在感は日々大きくなっています。ほんの数十年前までは“鉄道に乗る”という習慣そのものが市民のなかになかったのに対し、2010年時点では、1号線だけで年間乗車人数が15,591万人。その数字は今も伸び続けています。渋滞がなく、到着時間が読める鉄道は、ビジネスに好影響を与えると言われています。因果を厳密に語ることはできませんが、マニラの経済発展は順調に進んでいます。また、単に移動手段としてだけではなく、沿線には商圏や宅地が発達するなど、都市開発に影響を与える存在になりました。安価に移動できることで、自動車を持てない経済状況の人々も、通勤や通学の範囲が広がっています。より便利にしようと、路線を何本か増やそうという計画も立ち上がりはじめました。
実は、鉄道事業って儲かりづらいビジネスなんです。公共インフラですから、運賃に跳ね返るような工費の釣り上げはできません。
率直に言うと、もっと割のいいビジネスはたくさんあります。それでも私たちが鉄道事業を続けるのは、住友商事がその地域社会に貢献しているということを、世の中に示せるから。1号線の試乗式典には、当時の日比両国のトップ、安倍首相とフィリピンのアロヨ大統も参加され、大いに注目を集めました。ここまで大きな話になることは稀ですが、鉄道事業はその規模から、現地メディアでは必ず報道されますし、財界人の間でも話題になります。その土地の人々の間で、住友商事という名前が知れ渡り、その信用が、新しいプロジェクトや鉄道以外のビジネスにつながっていく。長い目で見たとき、社会をより良くすることはもちろん、会社の価値を上げることにつながっていると考えています。
これは会社というより私個人の夢ですが、いつか海外に、“住友”の名の付いた鉄道を走らせたいと思っています。私鉄・住友鉄道を走らせ、その国の人々と我々、どちらも幸せになるような事業として成立させたい。大きすぎる目標に聞こえるかもしれませんが、地道なビジネスの先に、そのチャンスが来ると信じています。


藤川 英大
交通・輸送インフラ事業部
1993年入社
新卒入社後、建機輸送機本部(当時)に配属。以来、一貫してアジア圏の鉄道事業に携わり、現在は交通・輸送インフラ事業部で鉄道案件全般を担当。これまでマニラ、ホーチミン、バンコクへ駐在し、多くの現場を経験してきた。